最近では、試食コーナーで子供だけでは試食をさせないよう注意書きがあったり、レストランのメニューにアレルゲンの食材について記載があったりと、食物アレルギーについて様々なところで配慮されるようになってきました。学校給食についても同様で、食物アレルギーの事故は子供の命に関わることとして細心の注意が払われています。
食物アレルギーがあるということは、今や決して珍しいことではありませんが、実は、学校での対応が整ってきたのはここ数年の間です。私の勤務校でも、食物アレルギー事故をなくすために様々な工夫をしているので、紹介したいと思います。
ただし、国から「こんなふうに対応してください」という指針は出ているのですが、具体的な方法などは市区町村や学校の実情に応じてかなり違ってきますので、あくまで一例と思って読んでいただければと思います。
学校で行っている食物アレルギーの対応
食物アレルギーの対応で基本となるのが、アレルゲンとなる食材を食べないようにすることです。多くの学校で行っているのが、「除去食」の提供です。除去食は、お願いすればすぐに対応してもらえるわけではなく、ある程度決まった手順を踏む必要があります。
除去食の提供開始までの流れ
- 食物アレルギーがあることを学校に申し出る。
- 医師の診断を受け、診断書(学校管理指導票という所定の用紙)を学校に提出する。
- 学校側と保護者とで面談をする。(除去食の提供方法を学校から説明したり、保護者の方から緊急時の対応方等を聞いたりします。)
- 栄養士から、月の除去食用の献立表をもらい、間違いがないか家庭でも確認をする。
おそらく多くの学校が上記のような流れを踏んだうえで除去食の提供を行っていると思います。保護者の方の中には、「嫌いなだけだけど、アレルギーってことにしちゃおう」と考えて、気軽に申し出てくる方もいるのですが、除去食の対応件数が増えるとその分ミスをする可能性も出てきますし、何よりそれを認めてしまうと対応しきれなくなってしまいます。面倒に感じてしまうかもしれませんが、医師の診断のもと一つひとつ確認しながら丁寧に進めていきます。
そして、いよいよ除去食の提供となるわけですが、それについてもいろいろとルールがあります。「堅苦しい決まりばかりで子供がかわいそう!担任が気を付けていけばいいんじゃないの!?」と感じる方もいるかもしれませんが、子供の命に関わることです。担任の先生一人が気を付けていれば済むことではありません。
実際に、死亡事故も起こっているくらいですから、ルールを徹底して守り、学校、保護者、子供自身が本当に本当に気を付けていかなければなりません。
除去食提供に関するルール(例)
- 保護者と子供は、家で除去食のメニューを確認しておく。
- 担任は、給食の前に除去食のメニューを確認しておく。
- 除去食の場合、皿の色が変わる。
- 除去食が盛られた皿にはラップがしてあるが、食べ始めるまでラップは外さない。(汁がはねるなどしてアレルゲンが混入するのを防ぐため)
- 除去食を食べている子は、おかわり禁止。(除去食をはじめから多めに盛るなどの配慮をしています)
実際のところ、ご家庭でメニューの確認をしてもらえていなかったり、担任の先生も忙しさでつい確認を怠ってしまったりすることがないとは言えず、どうすれば確実に取り組んでもらえるか試行錯誤の繰り返しです。
家庭と連絡をまめに取り合って意識を高めてもらえるようにしたり、除去食のメニューやアレルゲンの一覧、緊急時の対応方をまとめたファイルを担任がすぐに見られる場所に置いたりして工夫をしています。
実際に学校で起こった食物アレルギー問題のひやりはっと
こんなに気を付けていても、ひやりはっとは思わぬところで起こってしまうものです。
運動会のときのことです。私の勤務校の運動会では、お弁当のとき子供は保護者とは一緒に食べず、教室で食べることになっています。お弁当の時間、私が職員室で一息ついていると、食物アレルギーのある女の子のお母さんから学校へ電話がかかってきました。
私が電話に出るとお母さんは、「今日のお弁当に入れた冷凍食品のコロッケの中にカニ(アレルゲン)が入ってたみたいなんです~」とのんきに言うではありませんか!
びっくりした私は、その子の教室がある4階まで階段を駆け上がり、お弁当を食べるのをやめるよう伝えに行きました。幸い、まだ食べる直前だったため大事には至りませんでしたが、冷や汗をかいてしまいました。
しかも、その直後にわかったのですが、その子はいつもランドセルに入れて持ち歩いているはずのエピペン(アナフィラキシー症状が出た緊急の際に打つ注射)を持ってきていなかったのです。運動会の日は、リュックサックでの登校だったため、ランドセルに入れたまま家に置いてきてしまっていたのでした。
- 保護者が作るお弁当も必ずしも安全ではないこと。
- エピペンや頓服薬の場所や保管方法について検討が必要なこと。
の2つに気が付かされた事件でした。
このような事例からも垣間見ることができるように、保護者の方の意識にもかなり差があるのが現状です。日頃から、まめに連絡を取り、保護者の方にも協力していただけるよう働きかけていくことが大事だなと痛感します。
また、教職員に対しては、職員研修で食物アレルギーについて繰り返し学んでもらっており、意識が高まっていると感じます。しかし、食物アレルギーは、人によってアレルゲンも症状の出方も何もかもひとりひとり違い、オーダーメイドの対応が求められます。
いくら注意しようとしても、40人近い子供の面倒を見ながら対応するには限界もあるなと感じます。担任の他にも、献立を作っている栄養士さん、給食を作っている調理員さんのキャパシティもあります。でも、食物アレルギーのある子供にも、安全でおいしい給食をみんなと一緒に食べてほしい。本当に難しい課題だなと思います。