最近では、「発達障害」という言葉がよく知られるようになりました。1学級に2人程度は発達障害傾向の子供がいると言われています。「うちの子は他の子供と何か違うのでは…」と、子育てに悩んでいる人も多いのではないでしょうか。
この記事では、私が保健師の仕事を通じて大勢の子供と接している経験を踏まえ、発達障害の子供の特徴や接する際に気をつけているポイントを紹介したいと思います。
発達障害とは?
発達障害とは、脳機能に起こる先天的な機能障害です。
- コミュニケーションが苦手
- ある特定の学習が極端にできない
などの特徴があります。一方で、
- なんでも暗記をすることができる
- 好きな勉強については誰よりも詳しい
などの特技を持っている人もいます。得意なことと苦手なことの振り幅が大きすぎるがゆえに、社会生活で困難を感じることが多くなってしまうのかもしれませんね。発達障害とは、「病気」や「障害」ではなく、その人の「特性」と言えるでしょう。
発達障害の子供の特徴
発達障害は以下のようなタイプに分けることができます。
- 広汎性発達障害(PDD:Pervasive Developmental Disorders)
- 注意欠陥/多動性障害(AD/HD:Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder)
- 学習障害(Learning Disorder)
1. 広汎性発達障害(PDD ; Pervasive Developmental Disorders)
自閉症スペクトラムとも言います。社会性やコミュニケーション能力に障害があります。物事に強いこだわりがあったり、感覚が非常に敏感だったりといった特性があります。
保健室には広汎性発達障害の傾向がある子供がよく来室します。教室は、集団生活の場です。人とのコミュニケーションが苦手な子供や、音などに敏感な子供にとっては、居心地が悪く感じることも少なくありません。
そこで、静かな環境で先生に個別に対応をしてもらえる保健室や相談室にやって来るのです。現在、給食の放送でかかる音楽や、周囲のザワザワしたしゃべり声が嫌で、保健室に給食を食べに来ている子供が実際にいます。程度にもよりますが、学校の集団生活の場で子供が息苦しさや困難を感じ、ストレスを溜めてしまうような場合は、担任の先生と相談をして、保健室のような逃げ場や休憩の場所を設けるなどの対応が必要だと思います。
ただし、社会性やコミュニケーション能力は集団生活の中で育てられていくものです。「苦手だから」と、教室から距離を置いてしまうと、子供の成長の機会を奪ってしまうことにもなりかねません。その子にとって、何が最善かをよく考えて対応しなければならないと私は思います。
2. 注意欠陥/多動性障害(AD/HD ; Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder)
AD/HDの症状は大きく分けて、
- 多動性
- 衝動性
- 不注意
の3つです。AD/HDと診断された人同士でも、それぞれ症状のタイプが違います。AD/HDには以下の3つのようなタイプがあります。
①多動性・衝動性優勢型
多動性と衝動性が強く出ているタイプです。授業中に席に座っていられない、衝動的に相手をたたいてしまうなどの行動が目立ちます。男の子に多いタイプです。
②不注意優勢型
不注意の症状が強く出ているタイプです。具体的には、
- いつも忘れ物をしてしまう
- 机の上や周りに物が散乱している(片付けられない)
- ぼーっとしていて人の話を聞いていないように見える
などの特徴が見られます。女の子に多いタイプです。
③混合型
多動性と衝動性、不注意の症状がどれも見られるタイプです。AD/HDと診断された子供の多くがこのタイプになるようです。多動性、衝動性、不注意のどれが強く出るかは人によって違います。
AD/HDの傾向がある子供は、小学校へ入学する頃になるとその特性が目立ち始めます。勉強に必要な道具を揃えることができなかったり、席に座っていることができずに皆と同じ勉強ができなかったりと、先生やクラスメイトから注意されることも増えていきます。本人は悪気があってやっているわけではないのですが、周囲から理解されにくいのが実情です。
私の学校には、毎日ケガをして保健室に来室する小学校3年生の男の子がいます。彼は授業中でも校舎の中を一人で走り回っているのですが、いろいろな物にぶつかりながら常に動いているため、よくケガをしてしまいます。走りながら体当たりをするなどして、他の人にケガをさせてしまうことも少なくありません。
本人の中では、一緒に遊びたくて走って近づいた、ケンカを止めようとしたなどの理由があるのですが、気持ちが高ぶってしまうと暴走してしまうことがあります。現在、彼は人にぶつからないことと、気持ちを言葉で相手に伝える練習を日々の生活の中で行っています。
3. 学習障害(Learning Disorder)
学習障害とは、知的発達に遅れはないが「聞く」「読む」「書く」「計算する」「推論する」の能力のうち、特定のものの習得と使用に困難がある状態をいいます。
例えば、計算はとても得意なのに、教科書の文章を読むことができないといった状態です。これは、知的障害とは違いますし、努力不足なわけでもありません。学習障害は、本格的な勉強が始まる小学校入学まではわかりませんし、ある特定のもののみに困難が生じるため気付かれにくいと思います。
本人は、自分の努力が足りないと思って一生懸命やろうとするのですが、努力をしても周囲の人と同じようにはできるようにならず、自信を失ってしまうことも少なくありません。文節ごとに斜線を引いて読みやすくする、テスト問題は大人が読んであげるなど、子供の特性に合った個別の対応が必要になります。また、運動や音楽など得意な分野があればその長所を伸ばし、自信が持てるようにサポートしていくことも大切です。
発達障害の3つのタイプを紹介しましたが、同じ種類の発達障害であっても症状は人によって様々で、3つのタイプの特性を持ち合わせている場合も多く、はっきりと分けることはできません。
発達障害の子供への対応法
発達障害のタイプに応じて、「こうするといい」というマニュアル的なことはありますが、それはあくまで参考に過ぎないと私は思っています。同じタイプの発達障害でも子供によって特性や重症度は様々ですし、性格や考え方だって違います。
そもそも、医療機関にかかって「発達障害」と診断されている子供以外にも、特別な支援を必要としている子供はたくさんいます。大切なのは、その子がどんな子で、どんな支援があれば楽しく生活できるか、成長していけるかを考えてあげることだと思います。
発達障害の子供に接するときに気をつけたい3つポイント
私は、発達障害などの理由で学校生活に困難を抱えている子供と接するときに気をつけているポイントが3つあります。
1. 子供をよく知る
発達障害の有無に関わらず、まずはその子と接する中で、その子の性格や得意なこと・苦手なことなどをよく観察し、知ることが大切です。大きな声で話しかけられるのが苦手、できないことを周りの人に知られるのが嫌、聞いただけではわからないけれど図や写真があると理解できるなど、その子の特性を知ることで適切な支援を考えることができます。
自分の子供であれば、すでによくわかっていることかもしれませんが、学校では子供の様子が全く違うということもよくあります。担任の先生に家庭での様子を知ってもらうとともに、親も学校での様子を知っておくことはとても大切です。その上で、支援の方針を学校と家庭が協力して考えていけたらとても理想的だと思います。
2. 試行錯誤する
その子に合わせた支援を考えても、やってみると上手くいかないということは本当によくあります。本やインターネットにはいろいろな支援方法が紹介されていますが、なかなかマニュアル通りにはいきません。子供の性格や特性、周囲の協力体制などはそれぞれ違います。やってみて上手くいかなければ、もう一度支援方法を考え直し、また試す。大変ですが、この試行錯誤を繰り返していくことが必要です。
3. スモールステップで、できることを増やしていく
発達障害の傾向がある子供をはじめ、学校生活で困難を抱えている子供は、周囲の人と自分を比べ、劣等感を強く持っていることが少なくありません。否定された経験や失敗した経験が多すぎると、できないことに対して強い恐怖を感じ、やればできることにも挑戦できなくなっていってしまいます。
また、思春期になるとその自信のなさが、不登校やひきこもりなどの「二次障害」につながっていってしまうことも多くあります。何か新しいことを始める際には、はじめから完璧を求めるのではなく、少しだけ頑張ればできることを目標にして取り組んでいきます。「できた」という経験、褒められた経験を少しでも増やしてあげることが、何よりも大切だと私は思います。
「うちの子、発達障害かも…」と思ったら医療機関を受診すべき?
医療機関を受診しても、中には検査するだけ、診断するだけということも残念ながらありますが、私は、具体的な手立てを一緒に考えてくださる医師も多くいますし、そのような医師は信頼できると思っています。
他の子と違うからといって必ずしも受診をする必要はないように思いますが、もし受診をする場合は、その意義をよく考えて医療機関を探すことも必要なのかなと感じています。スクールカウンセラーはそのような医療機関の情報に詳しいことが多いので、まずはそのような人に相談してみるのもよいのではないでしょうか。